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第318位『夜の人々』(ニコラス・レイ)

They Live By Night/1948/US

ニコラス・レイの長編第1作は、フィルムノワールとも、アウトローカップルものとも形容されがちだが、実際はシンプルでうつくしいラブストーリーだ。「この青年と少女は、私たちの暮らす世界に正しく紹介されていない」という冒頭のクレジットは、その意味で本作の存在自体を言い表しているようにおもえる。エドワード・アンダーソンによる原作は、『俺たちに明日はない』で知られるボニー&クライドをモデルにしていると誤解されていたが、ジャーナリストでもあるアンダーソンが、実際にインスピレーションを得たのは、刑務所内で行われた銀行強盗への詳細なインタビューであるとされている。
 ボウイとキーチの物語は、ノワールと呼ぶにはあまりに純粋で、アウトローカップルと呼ぶにはあまりに繊細だ。ボウイは10代から刑務所での生活を余儀なくされ、そこで知り合った仲間(というよりは搾取的な支配者)に、犯罪の世界に引き入れられる。劇中で具体的に強盗シーンが描かれるわけではなく、堅気になるために犯罪に手を染めなくてはならないジレンマが強調されている。キーチも同じく、周囲の大人たちに搾取されてきた人生であり、登場場面からすでに世界へのきびしい諦観と警戒を身にまとっている。疑心暗鬼に縁取られたキーチの瞳が、ボウイとの素朴であたたかな対話によって徐々に氷解し、やがて恋に輝いてく過程を、つぶさにとらえている。
 結婚の意思を確認した2人が、バスを降り、「20ドルの結婚式場」へと歩いていく。生まれて初めて、自分たちだけの人生を歩もうとする若者たちのたよりない足取り、ふるえるような決意に感動する。だが、そんな彼らの結婚に立ち会うのは、やはり詐欺師か商売人のような大人なのだった。これは、可能性に満ちた若者たちの希望と幸福が、大人たちのノワールに徹底的に搾取され、破壊されていくどこにでもある話だ。だからいまも、私たちのなけなしの良心と理想主義を射抜く。