“Gish Note”はDieSixxの映画評だけをまとめたブログです。

第147位『縮みゆく人間』(ジャック・アーノルド)

The Incredible Shrinking Man/1957/US

ユニバーサルで数多くのジャンルムービーを手がけたジャック・アーノルドの『大アマゾンの半魚人』と並ぶ代表作。
主人公がどんどん小さくなっていくというシンプルなプロットだが、男性の自信喪失という普遍的なメタファーを持つ、ミニチュアや合成を駆使した完成度の高い特撮とアクション、サスペンスで見せつつ、思わず実存主義的な結末へと至る。
椅子に座った主人公に話しかける友人からカットが切り返すと、すっかり小さくなった主人公が映るのは演出ながらショッキング。ドールハウスの扉を開けると猫の顔がどーんと現れる。地下室では命懸けの橋渡りやクモとの闘い、水漏れで大洪水などこのジャンルならではのセンスオブワンダーに溢れている。


 

第148位『にっぽん昆虫記』(今村昌平)

The Insect Woman/1963/JP

戦中・戦後の底辺を生きる地方出身、貧困女性の忌憚ない一代記。同録による訛りの強いせりふやほぼノーメイクとみられる油まみれ、泥まみれの俳優たちが生々しいリアリズムを見せる一方で、奥行きを生かした凝ったた構図が面白い。
血は繋がってないとはいえ、白痴の父と幼少期から「夫婦」を名乗り、出産後に張った乳を吸わせ、自分を囲う愛人を「父ちゃん」と呼んで喜ぶトメのファザコンぶりは異様に映るが、地主制度に軍国主義、閉鎖的な家制度、ムラ社会と幾重にも重なった差別と搾取構造に身を置くトメが、無尽蔵な愛をそそいでくれる父(と父的な男たち)との関係に依存していくのも、むべからぬこと。日本社会の陰湿で理不尽な側面が、これでもかと照射される。男性依存的なトメとは対照的に、男性も臆せず利用して目的を実現していく戦後生まれの娘、信子の生き様も興味深い。
トメ役の左幸子は一世一代の名演で国際的な名声を得た。杉村春子に憧れ女優を志し、監督業にも挑戦。政治的な発言により番組を降板したこともあるなど、率直かつ進歩的な人だったようだ。私生活では夫で映画監督の羽仁進が妹と不倫し離婚。葬儀には実娘も出席しなかったという。近年、監督としての田中絹代が再評価されつつあるが、左幸子の生き様にも、そのうち光が当たればと思う。