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第319位『バロン』(テリー・ギリアム)

The Adventures of Baron Munchausen/1988/UK

初めて触れたのはフジのゴールデン洋画劇場だったか。『未来世紀ブラジル』の悪夢的ビジョンから離れて、娘のための映画を、と意気込んだだけあって、リッチな画面と愉快な登場人物、物語論的な知性にもあふれた正統派ジュヴナイルに仕上がった。私も7、8歳のど真ん中世代だったので、夢中になった。
本作は無計画なプロデューサーに振り回された制作現場の混乱ぶりから、長らく「失敗作」のレッテルが貼られ続けてきた。80年代の映画ジャーナリズムは、「第2の『天国の門』」を虎視眈々と探し続けていたところがある。
結局、『バロン』製作現場における下世話なバックストーリーは、本作が提供する豊かなイマジネーションを凌駕することはなかった。作品が、理性の時代(といいつつ実際は戦争と資本主義の時代)にイマジネーションの勝利を描いていたように。
アナログ特撮技術が円熟を極めた80年代の空想映画には、CGの台頭により「リアリティ」を獲得していったその後の映画群では、絶対に感じることのできない手触りやにおいがある。それは、古いストーリーブックをめくったときの、焼けた紙の感触と匂いや、固まった紙がしなる乾いた音だけが持っている「リアリティ」と似ている。