Rouge/1987/HK
50年前に身分違いの悲恋のはてに、恋人と心中した芸者が、あの世で待っていてもいっこうに恋人と再会できないので、しびれを切らして現代によみがえり、新聞広告を出そうとする。『大霊界』のようなとっぴなプロットを、名匠スタンリー・クワンと80年代に一世を風靡した香港の歌姫アニタ・ムイが、詩情あふれる都会のゴーストストーリーへと昇華した。
ふつうに考えたら、恋人は死ななかったのだろうなと想像がつくが、実際は破談をうらみ、思い詰めた芸者側の無理心中であった。偶然知り合い、幽霊を手助けすることになる新聞記者カップルは、怖がりつつも、恋人を探すために奮闘。無理心中を知れば、友達のように叱咤してくれてとても優しい。
アニタ・ムイが40歳の若さで亡くなった、ということもあり銀幕での存在じたいに、名状しがたいうつくしさとはかなさをまとっている。50年代の遊郭文化を再現した優雅でぜいたくな美術にも目をうばわれる。
生き残った恋人は、身を持ち崩し、三文役者として落ちぶれていた。美貌と栄華をそのまま残している幽霊との再会が、流れ去った歳月の残酷な断絶を際立たせる。幽霊は「もうあなたを待たない」と年老いた恋人に別れを告げて、霊界へと帰っていく。自己完結感がすごいが、アニタ・ムイの美しさと音楽の魔力で、何かとてつもなく胸に迫るメロドラマを見たような気になり、泣けてくる。
どんなにとんちきな物語でも、キャストと演出、ルックで押し切れば、一流の映画になってしまうという好例。