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第297位『少女は自転車にのって』(ハイファ・アル=マンスール)

Wadjda/2012/SA-DE

映画館の設置すら禁じられているサウジアラビアで、初の女性監督となったハイファ・アル=マンスールのみずみずしい長編映画イスラム教のきびしい戒律を重んじるサウジアラビアの郊外。10歳のワジダは、保守的、というより明確に性差別的なイスラムの文化、習俗に息苦しさを感じながらも、スニーカーを履いたり、ミサンガを作ったり、ラブソングのカセットを作ったりと、ささやかな「抵抗」を日々の糧にして生きている。男性に髪の毛を見せてはならない、声も聞かれてはならない、車を運転できない、生理の日は教典に触ってはならない、家系図に名前は載らない―。たんに保守的と呼ぶには、あまりに理不尽で、性差別的なイスラムの「常識」の数々が、少女のミニマムな成長譚のなかに、ごく自然に編み込まれている。黒いヒジャーブに覆われたイスラムの女性たちは、なるほどこんなふうに笑い、泣き、悩み、楽しんでいるのだと教えてくれる。
世の中には、少女が自転車に乗ることすら困難な国がある。そんな国で「女性映画監督」になるというのはほとんど不可能に思える。さまざまな困難もあったろう。しかし、アル=マンスールの語り口はあくまでもユーモラスで軽やかだ。この映画のクライマックスは、とても地味だが、心がふるえる。どんなにきびしく、理不尽な環境でも、努力して目標を達成するよろこび、楽しみを謳歌するよろこびは、相変わらず人の心をうつ。その輝きは、誰にも奪うことはできない。