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第325位『フェイズⅣ 戦慄!昆虫パニック』(ソウル・バス)

Phase Ⅳ/1974/US


 映画史に残るタイトルデザインの数々で鳴らしたソール・バスだが、唯一の監督作である『フェイズⅣ』のタイトルクレジットは、えらく簡素で控えめである。しかし、アリたちが集団で知能を持つようになり、人間を支配するようになるというプロットは斬新。大がかりな特撮はなく、マクロレンズなどを用いたフッテージはネイチャードキュメンタリーの趣だが、アリたちの〝演技力〟により、驚異的な映像に仕上がっている。殺虫剤の成分を何匹ものアリたちが〝いのちのリレー〟により運んでいく場面や死んだ仲間を弔う場面、カマキリに逆襲する場面など一体どのように撮ったのだろうか。『サイコ』のあの有名なシャワーシーンのコンテを切ったというバスの卓抜した編集センスによるものなのだろうか。いや、それにしても…。
 手のひらの穴からアリが這い出してくるショットはショッキング。ラストの展開はバスが敬愛したスタンリー・キューブリックの『2001年宇宙の旅』に影響を受けたと思われる。ブルーレイにはさらに長いバージョンも収録されていた。バスの死後に遺品から発掘されたものらしいが、かなり抽象的でドラッギーな仕上がり。

 私がこの映画について知ったのは、映画評論家の町山智浩氏の著作「トラウマ映画館」(2011)であった。氏が幼いころにテレビなどで見て、「トラウマ級」のショックを受けた映画たちを、探し当て、解説する作品で、本作の他には『バニー・レイクは行方不明』『裸のジャングル』『不意打ち』『追想』『悪い種子』『マンディンゴ』などがラインアップされていた。いずれも頻繁にテレビ放映されていたらしいが、本が発行された当時は見ることが難しいまぼろしの作品ばかりだった。私は著作を熱心に読んでは、まだ見ぬ珍作・怪作に思いをはせたものだった。著作が評判を得たからか、その後、多くの作品はBS・CSで放送されたり、ソフト化されたりした。『フェイズⅣ』も現在は高画質で、日本語吹き替えまで収録したブルーレイを簡単に入手できるようになった。