“Gish Note”はDieSixxの映画評だけをまとめたブログです。

第356位『素晴らしき休日』(ジョージ・キューカー)

Holiday/1938/US

ジョージ・キューカーキャサリン・ヘプバーンケイリー・グラント瀟洒で優雅なロマンティックコメディ。
旅先で知り合ったジュリアと結婚するため、自宅を訪ねたジョニーは、彼女が銀行家の令嬢だったと知る。ジュリアはジョニーに「一族の一員」となることを要求するが、自由と旅を愛するジョニーは、ジュリアの姉で一族のはぐれものリンダに惹かれていく。
ジョニーは投資で成功してFIREになるつもりなのだが、それはそれでかなり恵まれた環境なので、拝金主義に対する「本当の豊かさ」とは、少し異なる気もする。しかし、ジョニーの保護者代わりでよき友人でもあるボヘミアン気質のポッター夫妻が、むしろ作品の人生哲学を体現していて、とても魅力的だ。音楽を愛し、虚栄にまみれた一族に絶望しながらも、最後まで飛び出すことのできないアル中の弟ネッドのニヒリズムも印象に残る。

 原作はフィリップ・バリーの舞台劇で、本作のわずか8年前にはアン・ハーディング主演で映画化されている(プレ・コード時代の映画なので見てみたい)。ヘプバーンは実は舞台劇で代役としてリンダを演じたが、思うような評判を得ることができなかったといい、彼女にとって今回の再映画化はリベンジの要素を含んでいた。同年に公開し、同じくヘプバーンとグラントが共演した『赤ちゃん教育』と比べると本作の二人はずいぶんとおとなしく見えるが、しっとりとした場面をかえって際立たせている。