第106位『バリー・リンドン』(スタンリー・キューブリック)
Barry Lyndon/1976/UK

平凡な農家の息子バリーが、悪運と喧嘩とハッタリだけでのしあがり、破滅していく18世紀貴族社会のピカレスクロマン。ライアン・オニールの最初から最後まで貴族社会に馴染めていない野暮ったさが愛おしくも悲しい。
生まれてから死ぬまで決闘に翻弄された人生。人生の転機には必ず決闘がある。馬鹿げた文化であるが、本作では、庶民が上流階級と対等に向き合える唯一の舞台として演出されている。麻玉で気絶する臆病な軍人や緊張で嘔吐する義理の息子に対し、バリーはいたって平静である。バリーを憎むブリンドンの気持ちもわかるが、てめぇはたまたま大金持ちの家に生まれただけで、何を成し遂げたわけでもねえからな、とも思う。
多様なキューブリックのフィルモグラフィーで唯一の伝記劇。夜間の室内シーンは蝋燭の光のみで撮影するために、NASAから取り寄せた特別なレンズが用いられた、のは有名な話。18世紀の風景をそのまま完璧に再現してフィルムに焼き付けたら、それはもう後世の人間にとっては「真実」とほぼ同じ映像ではないのか。
今となっては必要なくなった技術だが、この映画でしか見られない特別な光が確かに存在している。光によって描かれた絵画のような前人未到にして不朽の傑作。タイパ優先のファスト映画がもてはやされる現代、滅びゆくかもしれない貴重な芸術である。



