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第328位『僕の彼女はどこ?』(ダグラス・サーク)

Has Anybody Seen My Gal?/1952/US

メロドラマの巨匠ダグラス・サークが手がけた軽妙なミュージカルコメディ。私が20代だった2000年代後半、サークの特集上映やDVD化が活発化し、なかなか見ることができなかった作品群をまとめて見る機会に恵まれた。『僕の彼女はどこ?』は、私が触れた最初のサーク作品ということもあり、個人的に偏愛している。おそらくサークのフィルモグラフィの中では異色作に分類されるが、傑作である。
天涯孤独の資産家フルトン(チャールズ・コバーン)は、若いころに自分をフった女性に家族に、自分の遺産を譲り渡そうと企画する。自分が成功を収めたのは、その女性にフラれて一念発起したからという。事前に下宿人として家族に近づき、信頼に足る人々だと見極めて匿名で財産を贈るが、思わぬ大金が良心的な庶民を変えてしまう。
 お金をめぐる風刺に満ちた物語だが、サークはことさらに庶民を貶めたり、見下げたりはせず、あくまで軽やかな寓話として描ききる。中心となるのは、ロック・ハドソンパイパー・ローリー演じるカップルの純朴なラブストーリーであり、クリスマスに全てが丸く収まる大団円を迎える。フルトンを見送る家族が、ドアのガラスからのぞき込むショットがうつくしい。「蛍の光」の旋律がごく短く流れ、ひとり去って行く老人の背中に、辛うじてサークならではの深くきびしい哀愁を見つけることができる。

 物語は明朗だが、テクニカラーとスタジオセットが織りなす画面は、この時代ならではのリッチさに満ちている。高画質ブルーレイ化してほしい1本。

 ちなみに無名時代のジェームズ・ディーンが端役で出演している。