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第331位『ベニスに死す』(ルキノ・ヴィスコンティ)

Death in Venice/1971/IT-FR-US

夏のヴェネチアを舞台に、生と死、美と醜、若さと老いを鮮烈に対比した名作。ヴィスコンティは、映画史上最高の美少年ビョルン・アンドレセンをフィルムに焼き付けた一方で、彼への許されざる性的搾取を告発されており、今となっては観客に対しても、美少年/美少女の若さや美しさを消費する姿勢を鋭く問い直す作品となっている。
 そもそも原作からして、10歳そこらの少年を一方的に見初め、つけ回しては、じろじろと見つめていたトーマス・マンの実体験に基づいている。そのグロテスクさを重々承知の上で、しかし、主人公アッシェンバッハの主観と同一化したカメラがゆっくりとパンしていき、おもむろにタジオがフレームインする場面には、毎度息をのんでしまう。以降、蠱惑的な視線と無邪気なふるまいに、観客もすっかりと魅了され、このあわれな老紳士に同一化してしまうのだから、映画とはつくづく罪深いメディアだとおもう。