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第332位『哀愁の湖』(ジョン・M・スタール)

Leave Her To Heaven/1945/US

ジーン・ティアニーが氷のように美しく、炎のように情熱的な悪女を演じるテクニカラーのフィルムノワール。重度のエレクトラ・コンプレックスに取りつかれたエレン(ティアニー)が、欲求不満と嫉妬にさいなまれ、自らの愛を阻もうとする者を容赦なく排除していく。劇中の彼女は冷酷かつ狡猾なファムファタルとして描かれるが、はたしてそうか。みずから馬を駆り、つねに競争に勝ち、情欲に正直なエレンは、結婚生活によって抑圧されていく。しかし、周囲が(あるいは物語そのものが)彼女の振る舞いを弁護したり、尊重したりする様子はない。障害者である夫の弟を溺死させ、わざと階段から転げ落ちて堕胎を図る徹底的な悪女として描かれる。一方で、エレンの妹ルース(ジーン・クレイン)は心優しく従順な「良心」を体現し、最終的には彼女が愛を勝ち取るのだ。残酷で皮肉な「ハッピーエンド」を目にしたとき、私たちの胸に残るのは、自由を追い求めながら砕け散っていった女性の悲痛な魂である。そこには、ジョン・M・スタールならではのフェミニズムが貫かれている気がしてならない。