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第351位『トゥインクル・トゥインクル・キラー・カーン』(ウィリアム・ピーター・ブラッティ)

The Ninth Configuration/1980/US

エクソシスト』の原作、シナリオで知られるウィリアム・ピーター・ブラッティの監督デビュー作。海兵隊精神科医ハドソン・ケーンは、ベトナム戦争で心に傷を負った兵士たちの療養施設に着任する。施設は霧深い山奥にそびえる古城で、まるで怪奇映画のようなムードである。詐病も含むさまざまな患者たちが支離滅裂なせりふや行動で、ケーンと観客を翻弄し、ぐらぐらと常識を揺さぶる。

 中盤まではほとんどコメディのような雰囲気だが、ロケット発射の直前に発狂した宇宙飛行士ビリー・カットショーとケーンの神の存在をめぐる問答から、徐々にケーンの精神世界へと分け入っていき、「本当に狂っているのは世界ではないか」と認識が反転していく。恐怖と興奮が爆発するバーでの圧巻の惨劇から、ギリシア悲劇のごとき愁嘆場を経由し、思いのほかさわやかでやさしいラストへと駆け抜けていく。他のどの映画にも似ていない、この映画からしか得られない感慨がある。