Yellow Crow/1957/JP
終戦から数年がたって、ようやく復員した父親と息子が、おずおずと遠回りしながら空白を埋める再生ドラマ。生まれて一度も会ったことのない父親との関係に戸惑う息子。息子との関係を築きたくとも、大きく変わってしまった日本社会についていくだけでも精一杯の父親。ちょっとしたことでつまづき、すれ違い、こじれてしまうもどかしい親子関係を、フェアな視点で描いている。
息子役の設楽幸嗣は小津安二郎の名作『お早よう』で知られる。あの作品では、駄々こねるだけでテレビ買ってもらうクソガキだったが、本作では年相応の未熟さと危なっかしさ、純粋さを高度に演じている。
母親役の淡島千景や先生役の久我美子も素晴らしいが、わけても家族を温かく見守り、手を差し伸べる隣家のシングルマザー、田中絹代のポジションが秀逸だ。身寄りのない孤児を養子にとって育てるが、それを隠すでも恥じるでもなく、しっかりと子どもに愛情を注ぐことで、自尊心と安心感を与えてくれる。親というより「大人」であることの大切さを教わった。
児童向けの甘ったるい道徳映画となめてかかると、抑制の効いた演技と繊細なシナリオに終盤たっぷりと涙を搾り取られる。50年代の保守的なホームドラマかと思いきや、話の骨格やメッセージは、是枝裕和監督『そして父になる』(2013)に近く、先進的でリベラルなことに驚く。
五所平之助初のカラー作品で、米ゴールデングローブ賞外国語映画賞を受賞しているが、知名度は低く、2024年現在ソフト化はされていない。ストリーミングサービスで配信しているが、画質は悪く、褪色している。しかるべきプリントで復活してほしいものだ。